会社の経営上、他社と契約を結ぶために、自社で得た情報を共有することはよくあります。
しかし、その自社の機密情報の取扱いに関する取り決めをせず、共有した場合、その情報を勝手に利用、流出される可能性があります。
そこで重要になる契約が秘密保持契約です。
今回は秘密保持契約の重要性を確認していきましょう。
【この記事のポイント】
- 秘密保持契約を知れる
- 秘密保持契約を結ぶタイミングがわかる
- 秘密保持契約の結ぶべき理由がわかる
秘密保持契約とは?
秘密保持契約(NDA)とは、自社の持つ秘密情報を他社に提供、共有するときに結ぶ契約を言います。
具体的に言うと、他社と協力して商品開発を行うときや、ソフトウェア等の開発を他社に委託する場合等が考えられます。
秘密保持契約を結ぶ理由
秘密保持契約を結ぶ理由として、次のようなものが挙げられます。
- 提供した秘密情報の不正利用を防ぐため
- 提供した秘密情報の漏洩を防ぐため
- 開発した商品・システム等の特許出願を考えているため
提供した秘密情報の不正利用を防ぐため
秘密保持契約を結ぶ理由として、秘密情報の不正利用を防ぐことが考えられます。
他社に提供する秘密情報は、事業によって様々ですが、具体的に言うと下記のようなものが秘密情報に当たります。
- 顧客名簿
- 企画書
- システムやソフトウェア等の設計データ
- 商品サンプル等
これらの情報を他社に利用された場合、経営上大きな打撃を受ける可能性があります。
秘密情報を不正利用されないためにも、契約を結んでおくのです。
提供した秘密情報の漏洩を防ぐため
自社の提供した秘密情報を他社が漏洩した場合、それが故意であっても過失であっても、自社の社会的な信用が失われる可能性があります。
特に、顧客情報を漏洩された場合、その顧客からの信頼が無くなり契約が打ち切られてしまう可能性もあります。
このような事態を防ぐためにも、秘密保持契約を結んでおく必要があるのです。
開発した商品・システム等の特許出願を考えているため
他社に提供した商品やシステム等について特許出願を考えている場合、秘密保持契約を結ぶ必要があります。
というのも、商品等の特許は「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」には認められないからです。
「公然」というのは、その発明を知っている人が特定・限定されておらず、不特定の人がその発明を知っていることを指します。
秘密保持契約を結ばずにその特許を誰かに教えてしまうと、特許を知っている人を特定することができなくなり、不特定の人が発明を知っているという状態になってしまうかもしれません。
したがって、特許出願を考えているときには、秘密保持契約を結ぶ必要があります。
秘密保持契約を結ぶタイミング
秘密保持契約を結ぶタイミングは、他社に秘密情報の提供をする前に契約しておく必要があります。
他社と契約等を結ぶとき、その契約内容には、秘密保持条項が盛り込まれていることがほとんどです。
しかしながら、契約は提案してすぐに相手方の合意を得られるとは限りません。
むしろ契約を結んでもらうために、自社の秘密情報を提供し、契約を検討してもらう場合の方が多いですし、その契約内容によっては、提案したこと自体、公にしたくない場合もあったりします。
このようなケースでは、本来の契約を結ぶ前に秘密保持契約を締結しておくことで、契約を交渉するうえで開示した秘密情報等が外部に漏れないようにすることができます。
そのため、他社と契約を提案する前のタイミングで、秘密保持契約を結ぶべきなのです。
秘密保持契約を作成するときの注意点
秘密保持契約は、会社間で秘密情報の共有を行う場合、大変重要な契約となります。
そのため、下記の点に注意し、秘密保持契約を作成しましょう。
- 秘密情報を明確に決める
- 秘密情報の取り扱いについて取り決める
- 秘密保持契約の期間を定める
- 秘密情報の漏洩等があった場合の損害賠償等の条件を取り決める
- 秘密保持契約について紛争が生じた場合の取り決めをしておく
秘密情報を明確に決める
秘密保持契約を結ぶときには、まず契約の対象となる秘密情報を明確に取り決めておきましょう。
秘密情報とは、相手方に開示する情報で、開示の際に秘密であると明示した情報のことを指します。
具体的に言うと、独自の技術情報、自社の営業情報等の経営における重要な情報に関わるものを言います。
また、締結する秘密保持契約自体も秘密情報に当たりますし、提携契約を締結前の会社間の提携情報も秘密情報に該当します。
会社の提携情報や買収情報等は検討段階でも、それぞれの会社に大きな影響を与える可能性があるので、しっかりと秘密保持契約に盛り込んでおくことをおすすめします。
秘密情報の取り扱いについて取り決める
秘密保持契約を結ぶにおいて、秘密情報の取り扱いについて取り決めをしておきましょう。
取り決めることとして、次のようなものが挙げられます。
⑴秘密情報の管理者・責任者の設置
⑵秘密情報の利用制限
⑶秘密情報の不正利用・漏洩の疑いがあった場合の通知義務
⑷業務上、秘密情報を第三者に開示する場合の事前承諾・通知義務
⑸事前承諾、通知義務をせずに第三者に開示しても良い場合
これらを取り決めることによって、どのような場合に秘密情報の管理の不備があったといえるかが明確になります。
加えて、双方で秘密情報の責任者や管理者等を取り決めておくことによって、第三者に秘密情報を開示する際の承諾、通知等の手続きをスムーズに行うことができます。
秘密保持契約の期間を定める
秘密保持契約において、期間の定め方は、秘密を公開してく期間を限定するという方法と、秘密を秘密として秘匿しておく期間を限定するという方法の2つの方法があります。
期間の長さやどちらの方法で期間を定めるかは、秘密の性質、秘密を管理するコスト、当事者の力関係等、いろいろな要素に影響されます。
安易に相手方の出して来た条件に従うのではなく、その内容が妥当かどうか、法務部や弁護士等の専門家と慎重に検討することが重要です。
秘密情報の漏洩等があった場合の損害賠償等の条件を取り決める
秘密情報は、その内容によって、会社の経営を大きく左右する可能性があります。
しかし、秘密情報が漏洩した際に生じる損害の内容によっては、賠償の対象となるべき損害なのか、争いになる可能性があります。
秘密保持契約を締結する段階で、どのような損害が生じるかあらかじめ予見できる場合、契約条項の中で、その損害も賠償の対象であることを明示しておく方が望ましいでしょう。
秘密保持契約について紛争が生じた場合の取り決めをしておく
秘密保持契約について疑義や紛争が起こった場合に備え、以下のことを取り決めしておいた方が良いでしょう。
- 協議事項
- 紛争が発生した際の裁判所の指定
協議事項
秘密保持契約を結んだ後になって、契約書に記載がない部分について、当事者の一方が疑義を感じることがあると思います。
そういった場合には、当事者間で協議の場を設ける旨を契約に盛り込んでおくと良いでしょう。
紛争が発生した際の裁判所の指定
秘密保持契約について話し合っても、折り合いがつかず訴訟等の紛争に発展する可能性があります。
このような場合に備えるために、あらかじめどこの裁判所で訴訟の申立てをするのか、指定しておくべきです。
なお管轄の裁判所が無い場合、その紛争の内容によっては、相手方の本店所在地(本社のある場所)を管轄する裁判所に申立てをしなければならない可能性もあります。
相手方の本店所在地が、遠方の場合、弁護士の出張費用等がかかるケースもあるので、あらかじめ管轄の裁判所を取り決めておいた方がいいでしょう。
契約作成・チェックが不安なら弁護士へ依頼することを検討しよう
今回は、秘密保持契約について詳しく解説させていただきました。
現在、企業における情報の取り扱いは、会社の信用を大きく左右する重要事項となります。
自社の持つ顧客情報、技術情報が流出した場合、経営が立ち行かなくなる事態も考えられます。
したがって秘密保持契約の締結はとても大切なことなのです。
一方で、常に契約の前に詳細な秘密保持契約を締結しようとすると、秘密保持契約の取りまとめに時間がかかって、契約が遅れてしまったり、契約自体ができなくなってしまう場合もあります。
秘密保持契約を締結すべき機会は多いですが、同じ内容の秘密保持契約でよいとは限りません。
そのため、契約書の作成や契約のリーガルチェックが不安な方は、弁護士への相談を検討してみましょう。
この記事の監修者は…
【事務所】弁護士法人ユア・エース
【弁護士】正木 絢生
【所 属】第二東京弁護士会所属
【一 言】相続の問題はさまざま。当事務所では、遺言書や遺産分割協議を中心に相談をうけたまわっております。気になった方は、一度当事務所にご相談ください。
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